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広島高等裁判所岡山支部 昭和24年(を)230号 判決 1949年11月16日

被告人

小林寬

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役五年に処する

原審における未決勾留日数中三十日を右本刑に算入する。

当審における訴訟費用は、全部被告人の負担とする。

理由

前略

弁護人生末耕一並びに弁護人古田進の控訴趣意各第一点について。

記録に徴すれば、原審が本件放火認定の資料として採用した証拠は、

一、被告人の原審公判廷における判示と同趣旨の供述

一、被告人に対する司法警察員警部補第二回供述調書中判示に符合する供述記載

一、司法警察員の小林剛に対する参考人第一回供述調書中同人の供述として昭和二四年四月二四日午後一〇時頃自宅の木小屋から出火した、自分の妻が最初氣がついたときは木小屋の処の東側に入れてあつた肥芝が燃えて壁の代りにつくつてあつた藁垣に燃え移つて居た、自分はびつくりして火事だ火事だと大声で騷いで叫び立てた。火事は判示の建物を全燒して翌日の午前一時頃漸く鎭火した旨の記載

であつて、前二者がいずれも被告人の自白(弁護人古田進の所論は、原審第一、二回公判調書を精査するも被告人が判示と同趣旨の供述、即ち自白をしている跡を見ないと主張するが、原審第一回公判調書を檢すれば、被告人は、原審冐頭において檢察官の起訴状朗読に対し「公訴事実は間違い無いので別に陳述することは無い」旨供述しているのであつて、被告人の右供述が刑事訴訟法第三一九條第三項に照らし同條第二項の所謂自白に包含せられ、且つ本件起訴状記載の公訴事実と原判示事実とも照合すれば、両者が同趣旨であることは明白であるから、原審が原判決に挙示する「被告人の当公廷における判示と同趣旨の供述」が敍上の自白である原公判廷における該供述を指示することは、記録上明瞭であるから、原判決に所論のような瑕疵は存しない。)であり、後者がその補強証拠であることは、所論指摘のとありである。ところが刑事訴訟法第三九條第二項は、被告人はその自白が自己に不利益な唯一の証拠である場合は有罪とされない旨規定し、自白によつて犯罪事実を認定するには補強証拠を必要とするとなすのであるが、しからば補強証拠は犯罪事実の如何なる点について如何なる程度に必要であるかというに、具体的な犯罪事実についてその行爲者が当該被告人であることや、故意過失その他犯罪の主観的條件は自白だけで認定してもさしつかえないが、被告人との結びつきを切り離した犯罪構成要件該当事実の客観的部面については、自白と相俟つて、これを認定できる程度の補強証拠が必要であると解する。しかるに小林剛の判示供述記載のみを以てしては、被告人の自白する点火場所に符合する箇所から発火して、原判示建物が全燒した点の補強証拠たり得ても、該建物の全燒が何人かの放火行爲に起因する点の裏付けになるとは認め難いから、同人の右供述記載は被告人の自白と相俟つて、本件放火を肯認するに足る補強証拠としては不十分である。從つて論旨はその理由がある。

以下省略

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